イミグレーション・ミュージアム・東京 コンセプト

設立の背景

現在、全国に200万人以上、東京都に40万人以上の在日外国人の居住が報告されています。
しかし、これは外国人登録者の数であり、短期滞在者や未登録者を加えることで実際の滞在人口はさらに増加するでしょう。

ただし、2008年のリーマンショック以降在留外国人の数は下降傾向にあり、また2011年3月の震災と原発事故の放射能
汚染に起因する帰国者も増えています。しかし外国人達の移住動向とその影響は、データ上の変化だけで結論付けるわけには
いきません。

首都圏では、従来外国人が集住していた商業地区や求人需要の多い工場周辺のみではなく、郊外の住宅地にもその姿を見る
ことが多くなり、同様に定住化傾向も指摘されており、大勢の一時在留者よりも、少数ながらも地域におけるプレゼンスが
増してきていると言えるでしょう。

いまや全国的にみられるこの状況を、異文化交流の契機としてとらえる交流事業も数多く実施されています。
日本語教室はその中核を成すものですが、現在までは特に、日本の習慣や伝統文化を外国人に紹介する試みが多く、
次に彼らの伝統芸能や料理などを体験するものが続きます。それらは相互交流として地域社会に不可欠なものです。

しかし、私たち自身のコミュニティーが多かれ少なかれ機能不全化し再構築の途上にあると考えるならば、彼らが(万年
ゲストではなく)我々の同胞である市民として、コミュニティーに参加できる枠組みが求められています。
そして、彼らの文化と日本文化の差異から生まれるさまざまな発見や、生活の違和感、実質的な不便を改善する工夫などを
彼らの立場から理解する必要性は、これまで以上に高まっています。

なぜなら、それら現状への理解と取り組みが、在来住民にとっても生活し易く、安心で、しかも豊かな生活をおくる環境作りへと
繋がるからです。

イミグレーション・ミュージアムとは

米国やオーストラリアなど、主に移民を受容することで形成された国家や地域には、移民の存在意義を確立し、地域住民との
融和を促すために、その移住の歴史や目的、方法、処遇をはじめ、移民達の現状、生活、文化などを紹介する施設がありますが、
それがイミグレーション・ミュージアムです。

視覚資料の常設展示が中心ですが、地域の移民同士の交流イベントや移民アーティストによる現代作品を紹介する企画展の実施、
普及活動として多文化教育やワークショップ、人権セミナー及びフェスティバルなども定期的に開催されています。
日本国内においては、このような機能を持つ施設としてのイミグレーション・ミューアムは現在存在していません。

下左:オーストラリア・アデレート移民ミュージアムパンフレット
下右:Zineb Sedra作品『母国語』 La Cite Nationale de I’Histoire de Immigration Guideより)

※注
イミグレーション・ミュージアムの展示内容に関して注目すべきは、展示構成や展示作品そのものを現代アーティストに委託し、
さまざまな現代アートの手法を流用して移民の歴史や現状を表現していることがあげられます。

一例をあげれば、パリのイミグレーション・ミュージアムに展示されている、アルジェリア系移民アーティスト
Zineb Sedraの作品『母国語』はその典型だといえます。
移民1世としての祖母、二世としての母、三世としての娘の間で交わされる言語の違いとコミュニケーションの密度を
シンプルな三面のビデオ・インスタレーションで鮮やかに示しています。

このイミグレーション・ミュージアムでは多くの移民アーティストの作品によって構成されていますが、言うまでもなく
優れた移民アーティストの存在は移民の数に比例するのも事実です。

この点は、日本との状況に差異が認められます。

イミグレーション・ミュージアムへの道

日本国内現状

海外のイミグレーション・ミュージアムを参照しようとするとき、避けて通れない大きな問題が移民の定義です。
移民をほとんど受け入れていない我が国は、移民法も整備されておらず、国内でその存在を定義づけるのは難しい状況です。

ここから想定できるのは、行政が移民の存在を認める施設の設立にイニシアティヴを取れないこと。そして、人々の意識の中にも
外国人在住者に対する確かな定義が形成されずに、宙吊りの存在に甘んじていることです。

この違いを念頭に、海外におけるイミグレーション・ミュージアムを国内にそのまま模倣し、導入するという短絡的な思考は
避けなければなりません。一方では前述のように、国内では未だ移民アーティストを多数輩出する状況ではないことも
念頭におかなければなりません。

市民によるコミュニケーション・プロジェクト

ここでは第一に、地域に密着した活動が可能な市民スタッフ(在住者及び通勤・通学者)に、異文化に対する自身の興味や
経験値を出し合ってもらい、これらをベースに外国人達とコミュニケーションをとるためのアイディアをそれぞれ出し合い、
個別のプロジェクトとして実践していきます。

この活動から創出されるプロセスと成果は作品として展示され、記録された後アーカイヴ化されて「イミグレーション・ミュー
ジアム・東京」の中心的な機能を担います。

これらは多文化共生を促すためのフィールド作りの実践例、或いはシンプルなヒントとして、全国のあらゆる地域に
適応・参照させることができる有用なメソッドとして整備していきます。

地域コミュニティーにおいて、「市民によるコミュニケーション・プロジェクト」の始まりは、あくまでも個人的な出会いから
成る一本の線ですが、 これらを収束させることで、個々の単位としては、小さいながらも強固な関係性を築き、地域における
日本人と外国人、そして外国人同士のネットワークとして育てていこうとしています。

そして、将来的にはさまざまな外国人が、自身の興味に合わせて、生活や文化をユニークな切り口で紹介できるメディウム
として機能することを目指しています。

上記の活動を総合すれば、外国人個々の生活に染み込んだリアルな文化を紹介し、彼らと在来住民の間に生じる「融合の種」を
求めていくことが 「イミグレーション・ミュージアム・東京」の主なミッションとなります。
「市民によるコミュニケーション・プロジェクト」実施のために、以下の3つの視点を通して、外国人に投げかけるテーマを
設定しています。

*注 日本国内に散見できる「移民博物館/移民センター/移民資料館」等は、過去に国内から海外へ移住した人々(中南米や
ハワイなどへ)の記録を扱うもので、 国内に移住してきた人々を「移民」と認識したうえで対象化している施設は現在のところ
存在していないと思われる。